水晶殿

 熱海瑞雲郷の中で、教祖の手によって建設され、竣工を見た最後の建造物は「水晶殿」である。教祖が瑞雲郷を詠んだ歌の中に、

  絵巻物繰り展げたるが如くにてただ恍惚たりぬ景観台の上

というのがあるが、瑞雲郷の中でも、代表的な眺望の良い所を、教祖は景観台と名付けていた。そして後にこの景観台に建てられたのが水晶殿である。

 この建物は直径一二間(約二二メートル)の円を半分に切ったきわめて独創的な形をしている。
教祖は、信者をはじめ、訪れた人々が、ここからの眺めを心ゆくまで愛でられるようにと、南面をすべて透明なアクリライト(合成樹脂、アクリルで作ったガラス)にしたのである。「水晶」という名は、曇りのない理想世界を象徴して付けられたものである。まったく柱を用いず、前面を大きくあけた透明感は、いかにもその名にふさわしい。

 景観台の整地ができると、教祖は台を作らせ、その上に立って、景色がもっとも美しく見えるように、水晶殿の向きや、その床の高さなどを検討し、その結果、現在の位置に造られたのである。

 この建物はすべて教祖のアイデアをもとに設計されたもので、円形で柱のないその形式は、独立した建物としては非常に珍しい試みであった。したがって当時どこを探してみても、この建物の強度を計算できる人が見あたらず、建設省の技術課長がみずから担当し、添え書きまでしてくれたので、神奈川県庁に提出した確認申請も無条件で通ったという。

 昭和二九年(一九五四年)一二月の完成後は、建築界で評判となり、各方面の建築関係者が、しばしば見学に訪れたのであった。また、教祖は背後の凹面をなす石垣を「月」に、建物の中の緋色の絨緞を「日」に見たてて設計したと述べている。
水晶殿完成のおり、教祖は、
 
 「決して独占的のものではないので、一人でも多くの人々に天与の景勝地を楽しんでもらいたい。」

と言ったが、こうした言葉の裏には、細かいところにまで心を砕き、信者にとどまらず訪れる人々の憩いの場として安らぎを与えるようにしたいという教祖の心が偲ばれる。

 この水晶殿は、全国から集まった信者の献身的な突貫工事によって、わずか三か月の間に完成をみたのである。