『地上天国』二十二号-巻頭言

 いよいよ、朝鮮の戦争も持久戦の形となって来た。しかしこうなると共産軍の方は、歩が悪く苦戦となろう、といってもこのままお終いにもならず、今後の迂余曲折はなかなか見透しがつかないであろう。何しろ背後にはソ連が控えているし、中共といえどもまだまだ相当の力を貯えていようからで、ここしばらくはさすがのソ連も歯ぎしりしながらも、大いに準備を充実しなければなるまい。そうしておいて第二の段階を待って、米側の弱点に注視を怠らず、隙あらば何らかの手を打つであろう事は想像に難くはあるまい。ところが米国は米国で無限に等しい富と、驚くべき生産力を最大限に発揮して、万全の準備を進めつつあるので、この状態が長く続くとすれば、ソ連よりも米の方が段々プラスとなるのは言うまでもなかろう。そうなるとクレムリンとしても気が気じゃあるまい。何とかして追越さなければ、マラソンの敗者となるに決っている、という訳で今後のクレムリンの執るべき策略こそ見物であり、どう出るかは大きな興味といってもよかろう。

 ところで日本は、今後どうなるかという事である。それについて近頃の中共軍の驚くべき損害は、しばしば報じられている通りとすれば、共産軍のマイナスは、予想外に大きいものがあろう。こうなるとどうしても焦りが出たがる、焦りが出たが最後無理をする事になる。としたら軍隊の補給や軍資金を集めるにしても、国民を苦しめなければなるまいから、民心は益々離れるであろう。しかも油断のならないのはかの国民軍の動静である。長い間米国の援助を期待していた蒋主席も、ようやくある程度の諒解を得たらしいので、今度は極く慎重な態度を以て準備を進めつつあるようだから、若し中共が弱ったと見たら、たちまち進撃を開始するのは間違いあるまい。そうなると敵としては小さいながらも大きなアメリカの脅威を受けつつ、二面作戦となるから下手をすると大事になるかも知れない。その結果中国全土は戦乱の巷となるか予断は許さないであろう。しかも米国は満州爆撃の準備さえ出来ていると外電は報じている。

 しかしながら、右の推移を対岸の火災視しているとしたら、日本は危険千万である。何となれば中共が朝鮮の失敗を償うべく、あるいは日本に事を起そうとする肚があるかも知れない、その表われとして数万の日本人に、本土撹乱の準備教育を施しているそうで、本年五、六月頃には卒業の段取との新聞記事もある位だ。としたらその時以後は大いに警戒を要すべき事態となろう。この様な訳であるから、程度はまだ分らないとしても、日本も何時火の粉が飛んでくるか知れないので、充分覚悟を要すべきであろう。

 右を裏書するごとく、この文をかき終った今、ソ連は日本のふりょに共産教育を施した者数万が千島に集結し、何時北海道へ侵入するかも知れないという状勢で、その為かアメリカの州兵二個師が、急遽北海道の防備、その他に配分すべく派遣したというニュースであるが、漸次日本も油断のならぬ状勢が迫りつつある事は注意しなければならない。

「地上天国22号」 昭和26年03月25日

S26地上天国