『地上天国』十九号-巻頭言

 世界は御承知のごとく、時の経るに従い、段々物騒の度は濃くなりつつある。何しろ朝鮮の動乱を契機として、世界は一変してしまった。米対ソの確執は、緩和するどころか、寧ろ段々尖鋭化して来た。今のところアメリカとしては、北鮮軍を追い詰めてこれで一段落つくと思いきや、逆に中共が躍り出て、いつの間にか用意されていた大軍が、一挙に押返えして来たので、連合軍も大規模に後退し、兎も角殆んど犠牲なしで安全地帯にまで引上げた事は、不幸中の幸いと言うべきである。しかし中共軍も、最初の気勢を鈍らせた事は深い考えがあるらしい。何しろ連合軍の二十万に対し、七、八十万の大軍を以てすれば、敵を朝鮮全土から追い出してしまう事も、敢て難事ではなかろうが、そこまで行くと米は最後の切札として、原爆を出さない訳にはゆかなくなるだろうし、場合によっては、中国全土にまで及ぶかも知れないという危険があり、折角落付きかけた中国も、予測のつかない事態になるか判らない。という弱味もあり、加えてアジアの十三ケ国が連合で、三十八度線突破中止の勧告もあるので、さすがの中共軍も予定の計画を一まず中止し、形勢観望というところであろう。

 又アメリカといえども、連合軍の数が余りに劣勢で、敵を迎え撃つなどは到底不可能であってみれば、何とか中共軍を喰止めておいて、出来るだけ時を稼ぎ、その間に大々的戦備を整え、反撃しなければならないのはもちろん、形勢次第ではソ連との正面衝突も避け難い事態になるかも知れない、という懸念もあるとしたら、今度ト大統領の非常事態宣言といい、厖大な軍事予算といい、東西における味方に対する借款といい、その準備であるに違いあるまい。その様な訳であるから、結局は世界の二大横綱が、龍虎相争う凄惨なる場面が、顕出しないと誰か言い得よう。

 そう考えてくると、無防備日本は、一体どうすればいいかと言う事で、この見通しこそ現内閣はもちろん、国民全体の重大案件である。最近の米紙によるも、ソ連が日本攻略を目標として已に準備を整え、虎視眈々(こしたんたん)たる有様という事を報じている。いよいよ日本の身近に危機は迫っているのである。とすれば我等も充分覚悟の肚を固めておく必要があろう。

 右のごとく、この大難関が我が国を見舞う時が来るとしたら、どうすればいいかと言う事である。この場合もし絶対神の御加護がないとしたら、到底安心して生き抜く訳にはゆくまい。信ずるものは幸いなりというキリストの聖言は、今更ながら我等の胸をうつのである。

「地上天国19号」 昭和25年12月25日

S25地上天国