▽前節から続く▽
それからスターリンの死について、その後ソ連の平和攻勢があり、ソ連の方針がばかに変わったのですが、変わったことの第一番は、アイゼンハウアーが本腰になって中共征伐をやろうとしていろいろ準備をしているので、これをやられたら中共のほうに勝ち目がないということはよく分かっているので、早くアメリカの考え方を変わらせなければ危なくてしようがないので、そこで急いでああいう手を打ったわけです。そうしてまずアメリカを緩和して御機嫌を良くしておいて、それからゆっくりと新しい政策をたてようという考えです。というのは、マレンコフとかモロトフという人たちが相談し合ってやっているのでしょうが、とにかくスターリンは偉い人物なのです。それはマレンコフでもモロトフでもてんで後継ぎができるほどの者ではないのです。スターリンはとても偉いのです。ですからスターリンが死んだということは、ずっと弱くなったのです。弱くなったから、じきに平和的になるかというと、そうもゆきません。ここに問題があるのです。それはアメリカとしては、どうしても朝鮮の南北を合併させなければならないのです。そうでないと侵略を認めるということになりますから、そうすると将来、世界平和に対して非常に悪い例を残すということになるから、アメリカとしてはどうしても合併させなければならないのです。そうしてもう一つは中共が蒋介石<しょうかいせき>を押し込めて中国の全権を掌握したということも、アメリカとしてはどうしても許せないのです。それと蒋介石に対して、いままでアメリカが公約してきたことがあります。いよいよ復讐戦<ふくしゅうせん>のときには大いに援助するというような点もあるのです。そうかといって、それをやると、そこに非常に悲惨な戦争を起さなければならないことになるのです。アメリカとしては中共が大いに平和的に来るのに、それを武力でやっつけるということは、世界の世論に対しておもしろくないのです。ですからこの点はアメリカも非常に困るのです。この前、ダレスが辞職するとか、二、三日前の新聞に出てましたが、べつにダレスが悪いのでなく、情勢がそうなったのです。スターリンの死を動機として非常に平和的になってきたのですが、一時ダレスが言うこととは情勢が違ってきたからで、これはしかたがないのです。これは了解するに従ってこの問題は消えますが、いまのアメリカがちょっと困ることです。一番厄介なのは南北朝鮮の合併です。これをどうしてもやらなければならないのです。それでこの間、平壌<へいじょう>と元山<げんざん>の線まで進出するというスローガンを出しましたが、ああいうような具合にアメリカが言ってくると、北鮮も中共もオイソレとは言うことをきくことはできないのです。しかし抵抗するとやっつけられるというので、これもずいぶんゴタゴタするだろうと思います。そういうようで、だいぶ平和的にはなっても、まだまだ難しい問題がたくさんあります。それからまたインドシナの問題などもホー・チミン軍が非常な攻勢に出てきましたから、下手にまごつくとフランスが追い払われますから、そうするとそれに対するアメリカの援助を中止することはできないし、どうしてもホー・チミン軍をある程度くい止めなければならないから、これに対するアメリカの戦略もなかなか難しい問題なのです。ですからソンナコンナで、まだ当分そういったような問題がいろいろとずいぶんあるだろうと思います。そこでどうしても、まず朝鮮を、武力をもって南朝鮮のほうに勝たせなければならないというような政策に出るかもしれません。とにかくこれからいままでと変わった形の朝鮮問題というものに変化して行くわけです。われわれからみると一種の興味ある問題と言ってもよいのです……それは、見物人のほうだから。それでスターリンの死についてちょっと書いてみました。
(御論文「英雄の死に就いて」朗読)〔「著述篇」第一一巻四七六―四七八頁〕
▽次節に続く▽