というのは、なにしろ、いまヨーロッパで統一軍を編制してますが、あれなんかに非常に金がかかるんですね。ヨーロッパの……英国、フランス、イタリアあたりにしろ、ほとんど金がないですね。みんなアメリカから金を借りたり、材料を供給されたりしてます。そうして、ようやく少しずつ、軍備をしているようで、ぜんぜんアメリカの負担になってますね。ですからして、今度チャーチルがアメリカに行ってトルーマンに会いますが、結局英国は金がなくなっちゃったんですね。一年くらい前にはそうとうあったんですがね。最近になって、急に英国は金がなくなっちゃったんですね。これについて、あんまり人に言わないけれども、日本人が気のつかなければならないことは、英国が非常に疲弊しているわけですね。なんだと言うと、食糧問題にしろ、いまもって、一週間に卵一個だとか、牛肉は足りないし、バターは足りないし、ちょうど日本の戦争中のような状態ですね。ですから、今日の日本に較べると、日本のほうがずっと食糧事情なんか良いですね。金さえ出せば、どんなおいしいものでも食べられるという状態ですが、英国はそんなことはできないですね。厳重なんですね。もっとも国民性にも因るんですがね。疲弊生活ですね。だから、負けた日本のほうが楽で、勝った英国のほうが疲弊生活ですね。チャーチルなんか、演説して警告してますがね。英国が、なんであんなになったか、ということは、あれは社会主義のためなんです。労働党なんかずいぶん続きましたがね。私は先から、社会主義はいけないと言っている。というのは、社会主義というのは、一般大衆に対しては、そう苦しむ者はないし、たいへん良いんですが、その代わり優勝劣敗があんまりないですから……大いに活動して欲望を満足させようとしても、ある程度制限されているから、そういった欲望がなくなるんですね……国民がね。自由競争というのが制限されているんです。だから、あんまり活動しない……働かない者が得なんです。どっちかと言うと、怠け者の天国と言うんです。だから英国は貧乏を救う……救貧施設というのが非常にできてますよ。大いに働いても、それほどおもしろくないから、そういった欲望がずっと減るんですね。そこにいったら、アメリカは……ちょうど日本の豊臣時代のようなもので……腕のある奴は出世ができるというので、大いに活気づいて、国家が生き生きしてくる。社会主義というのは、そういった……あんまり、一般的に公平にしすぎるんですね。結局不公平なんですね。で、私が前にも言った、公平が不公平で、不公平が公平だ。結果はそうなるんです。働く奴は出世する。怠ける奴は駄目だ。それが公平なんです。ところが、社会主義からいうと、不公平になるんですね。要するに行き過ぎなんですよ。あまりに片っ方に行き過ぎるんですね。社会主義と言うのは行き過ぎなんですよ。アメリカの資本主義も行き過ぎようとするのを、とにかくアメリカ人はなかなか利口ですから、うまく労働政策なんか採って、行き過ぎないようにしているんですが、あれはなかなか巧妙にやっている。ところが英国のほうは、資本主義の反対の行き過ぎがほとんどなんです。先のアトリーという人は、なにもないような平和なときは良いが、今日のような脅威な……ソ連なんていうものがあるときは駄目なんです。物質なんか非常に不足してますね。日本からも輸出して、それでポンドが増えて困ってます。日本がちょっと……緬羊なんか、努力すると日本のほうが、英国より勝っちゃったですね。ですから、英国で一番恐がっているのは緬羊ですが、日本の政策を考えているようです。というのは、あんまり骨折って働いても、つまらないというので、沈滞してしまうんですね。日本なんか、社会主義をやっていないので、ともかくも活気があるんですよ。大いに腕を振るうというんで、ただ日本は税金で押さえられるんで……だいぶなんですが、まだ英国よりずっと良いでしょう。そんなようなわけで、政治にしろ、なににしろ極端に走るんでいけない。共産主義にしろ……あれも社会主義より、もっと極端にいってますがね。共産主義というのは、一遍に、ひっくり返っちゃいますよ。
「『御教え集』六号,講話篇第六巻p354~356」 昭和27年01月03日