この間、大谷光瑞のもので、支那から持ってきたのですが、二、三点買いました。まだ光瑞のすばらしいのがありますが、見せるように言った。それから、上に絵が画いてあってお経になっているのがあるが、因果経といって一行五万円ですがね。それを切って三行か五行で一〇万はする。この間三行持ってきたが、行の少ないのは嫌だったから止めた。美術館のために五四行というのを買いましたが、巻物はそれが一番です。値打ち物です。あれは、ちょっとでも切るか洗うかすると国宝にならない。八三行というのを、切らないで絶対に取っておけと言ったが、どうしても欲しいと言う人に分けてやって、五四行になった。それを一行四万五〇〇〇円で買いました。
〔 質問者 〕大雅という人が画いたのがございますが、あれは値打ちがあるものでしょうか。
少しはあります。傑作物ならいくらかあるがたいしたことはない。大雅と蕪村と崋山の三人が良いとしている。
〔 質問者 〕だいたいにおいて掘り出し物はございませんのでしょうか。
ありますよ。私はずいぶん掘り出し物を買いました。おもしろいんですね。仮に素人が預かって、それを道具屋に見せるでしょう。道具屋も目が利かないので……道具屋も分からない。そういうのがときどきあります。この春にも、高野山にあったので、坊さんがお経奏げてるのを五万円で買いました。それは、私の目が利いているわけではないのですが、藤原時代にできたもので、日本で最古のものです。いま安くても五〇万です。五〇万か六〇万です。
〔 質問者 〕いろんな古いものを持っている人がありますが、そういう中から。
そうです。そういう中から、たんとはないが一つや二つはある。
いまアメリカでは書を買うんです。色紙ですね。これを馬鹿に欲しがる。
それで、高くなったですね。終戦後、財閥が……三井とか、ああいった人たちが、生活を制限されたでしょう。そのために食って行けないので、内証で隠してあるのを売ったのを買いましたが、いまはみんな、何倍、何十倍になっている。だから、売ったらずいぶん儲かるけれどもね。そのとき、私はずいぶん買った。高い高いと思って買ったのが、ずいぶん安い。日本でも、ぼつぼつ美術館を造りますが……近畿鉄道もそうですね。これから建築にかかるんですが、品物もそうとうあります。いまでも集めているんです。それが、うっかりすると良いものを買うかもしれない。それから文部省では、文化〔財〕保護委員会というのができたんです。それが三億の予算を取ったのでこれがうんと買う。アメリカは目を皿のようにしてますからね。それを、こっちは他に取られないように、ひっこ抜きするわけです。こっちも金はそうないからね。チビチビ内金内金でやっている。たいてい三月くらいはかかっている。しかし他のもやっぱりそうです。近畿鉄道でもやっぱり月賦かなにかで買っている。
一品一〇〇万か二〇〇万ですからね。そうかといって離してはつまらないしね。美術館になくてはならないのがあるからね。金が苦しくてもしようがない。借金や貧乏で苦しいんではなくて、買わなければならない物を買うんで苦しいのです。世間で言う金に苦しいのと違う。しかしやっぱり神様がやってますからね。私が欲しいと思えば、きっとだれかが持ってくる。よく道具屋が、こういうものは出るものじゃないが……と言う。
白鶴も実際不思議ですね。あの中で欲しいのが五、六点ある。それが入るとどこにも負けません。あそこにはふたたび手に入らないものがあるんです。この秋に行こうかどうしようかと迷っていたが、神様は行かなければしようがないようにされちゃった。