明主様が、昭和二十九年吉野の奥の室生寺へ行かれました時のことでございます。
室生寺へ参られるご予定が決まりまして、最初例によって係の人が下見に行って、先方の係の人に、明主様ご参詣のことを述べて、〝当日奥座敷にご案内いただけないか″と申し入れました。
しかし先方では、〝あなたの方では尊い教主様かもしれないが、当方で貴人と認めた上でなければ、奥の座敷にはお通しするわけにはいかない〟とのことで、仕方なく〝まあ、何分よろしく″と言って引き下がりました。
いよいよ当日になりますと、役僧の方が奥の座敷を掃除したり、衣を着替えたりして、大変丁重に迎えてくれ、奥座敷に案内してくれたので、どういうわけかとたずねますと、その答えがまことにおもしろいのであります。
大体この寺は昔から龍神の守護があって、貴人が来訪する時は、その数時間前に雨が降り、その時間になると必ず晴れて、寺域がすっかり浄まっている――との言い伝えがあるのだそうです。
ところが、明主様のおいでになったその日は、お着きになる二時間ぐらい前まで大変な雨でしたのに、その時になると、すっかり晴れたばかりでなく、寺の前を流れる室生川の水が、その雨でも少しも濁らずに澄んでいる
ので、この客人は貴人に間違いないというわけで、大急ぎでお迎えする用意を整えたという次第だったのです。