『わしはまだ人間だなあ』

 教祖の岡田さんというひとは、全くザックバランで、風貌から言えば田舎のおじさんというところで、初めのうちは、この人から思いもせぬ話をされ、非常な驚きを感じました。 別の言い方をすれば、びっくりするような見事な言葉が口から出て来る人そういう驚きでした。

 岡田さんとは、“ものの考え方”ということで、よく議論しました。

 帰納か演繹かという問題が出て、岡田さんは、『帰納で物を考えるから、いろいろ不都合が起こる』と主張しました。『原因があって結果がある。医学も政治も、現象をつかまえてなんとかしようとしている。原因を忘れて、先の方ばかりひねくっている』とも言われました。

 また、『人間は、中庸をもっとも考えなければならないが、これはなかなか難かしいことだ。左と右とに足をかけて、まんなかに立って重心を調節し、平均をとっているという状態が一番いい。それを心がけることだ』とも言われました。

 また、『ものにこだわりをもつな。人間はすぐ右へ左へと傾きやすい。常に自分を反省して、右とか左とかに片寄ってはいないかを考える必要がある』とも言われましたが、この中庸論は、今日に至るまで、私の人生指針となっています。

 ある時、玉川のお宅だったと思いますが、私が部屋へはいって行くと、岡田さんはドテラを着て、ふところ手して、部屋の中を歩いていられるのです。

 と突然、立ち止まって、『ふところ手を出したら、どういうことが起こるか』と岡田さんが言います。

 で、私は、「そんなことはわかりませんが、手を出せば人間の形になります」と言いました。

 すると岡田さんは、『わしはまだ人間だなあ』と言いました。 また、ある時、岡田さんと話していると、空襲のサイレンが鳴りました。

 私は、「あなたは怖くないでしょう」と言いました。

 岡田さんは、『やっぱり怖いさ』と言いました。

 ただこれだけの話です。