明主様は、三越本店の美術部にも、ときどきお立ち寄り下さいました。
洋画はあまりお好きでありませんが、日本画の鑑定は玄人はだしと申したいところで、その点で〝こわいお客さま〟でした。なんでも深く知っていらして、いいかげんなことは絶対に言えません。たとえ言ったとしても、すぐ看破されてしまいます。こわいお客さまは、言いかえるなら〝売り甲斐のあるお客さま〟ということになりましょう。
絵の本物とニセ物の区別なら、たいていの人がやってのけるでしょうが、明主様のはそうでなく、本物の中でも、特にその画家が精魂こめて描いた作品と、そうでなくイージーな作品との区別を、実に正確に見分けられるのです。
この眼力といいましょうか、実に対する鋭い感受性ーーそれによる鑑定力は、全くたいしたものでした。
明主様は、やはり品位とか品格とかということをやかましくおっしゃって、『どんなに巧みに描いてあっても、品のない絵はすぐ倦きる。品位や品格は技巧ではない。その画家の人間そのものから泌み出て来るものだ』と申されていました。
そして、明主様は、塗った絵――それは塗りたくった絵という意味ですーーはお好きではありませんでした。
ですから、どんな大家の作品でも、『あれは塗った絵だ』と言われて、お買上げにはなりませんでした。
『絵というものは、描くもので、塗るものではない』ともおっしゃいましたし、『線が生きていない絵はだめだ』とも言われました。