初心を忘れては誠がなくなる

 箱根美術館の二階での出来ごとですが、ある日、美術品の軸物を陳列替えに、明主様がおいでになられました。

 いつもの例でそういう時は、私どもはウインドーの前にゴザを敷き、その上に美術品を列べ、ひとつひとつ、紙に名前を書いて判るようにして置いておくのです。

 ところが、そういう御用をいただいた最初のころは、真心をこめてさせていただいておりますが、だんだん慣れてまいりますと、つい習慣的になってダレてまいります。

 そうしたある日、『きょうの並べ方はへんじゃないか』とご指摘になられたのです。これは決して形の面をおっしゃったわけではなく、私の精神のあり方をご指摘になったわけです。

 ですから私は、いつもと同じように並べてあってのお言葉でしたので、一瞬わからず、はあーと当惑したような態度でおりますと、明主様は、『きみは私の書いたものを読んでいるか』とおっしゃいました。

 それで私は、「読ましていただいております」と申し上げますと、『では信仰雉話の第一ページになんて書いてあったか』と尋ねられますので、「誠についてでございます」と申しますと、『誠がない』とおっしゃいました。

 この時のお言葉は、ほんとうに肝に銘じさせていただいたつもりですが、たしかに反省してみますと、御奉仕にあがった最初は、喜びをもって、一生懸命お仕えさせていただきますが、いつしか習慣になってしまっていることに対する、お気づけであったと思わせていただきました。