神人のあかし

 私は昭和十年、大日本観音会ご創立当時、ちょっと風変わりな、一老信者の体験談をよく聞いたものでありました。この人には以来十五、六年も遇いませんが、このあいだ、共立講堂の講演会(昭和二十五年五月)の聴衆の中に手をひかれて来ていたのを見かけました。

 すでに、年令は九十には達しているでしょう。この老人は、長年音声によって人の心を知るとかいう音声学を研究したのだそうで、かれはその直伝の師、鴨則清氏から、「非常に徳高く、最も神に近い方に接する時、その声を聞けば、必ず、のどに甘露の味を覚え、なんともいえないよい匂いがする。そういうお方があれば、神と人とのあいだに立って世を救う人である。汝は将来必ずそういうお方に遇うであろう」と教えられたそうです。

 ところが何十年かの後、神縁の糸に引かれ、かれが初めて明主様にご面接し、そのご馨咳(けいがい)に接した時、お声が紫色感で艶々しく、のどに甘くうるおいを覚えたと思うと、なんともいえぬ薫香を感じた。それは蘭奢待(らんじゃたい)の香りかと思われ、あたかも天国浄土へ行ったような気がしたので、かれはいまさらながら、恩師の予言以上の、ものの的中に大いに驚喜して入信し、お声の芳香に恍惚とするのを唯一の法楽とした、と語っていたものでありました。