それで、もう一つの驚くべきことは、その早さです。これはみんな知ってますが、とにかく世界的の地上天国というものが、あるいは美術館というものが、これに匹敵する世界的のものでは、イタリアのヴァチカン、フランスのルーヴル、後は大英博物館ですが……これは英国では一番よいのですが、美術のほうは一部になってます。世界的では、いまのヴァチカンとルーヴルの二つです。それをアメリカの新聞記者が、箱根に匹敵してみたのですから、熱海ができれば、勝るとも劣る気遣いはないです。ところがあっちは、ローマにしても一〇〇〇年近くかかっているし、ルーヴルにしても数百年かかってますし、また多くの人とたいへんな金がかかってます。ところが私のほうはわずか一〇年です。とにかく、始めたのが昭和二一年ですから、三一年に完成するとしても一〇年です。しかも私という、元は貧乏のほうではチャキチャキのほうの者が、一〇年間にこれだけの物を造ったということは、とても人間業ではないということが分かるのです。そうして日本では、昔からの大きな美術的の物としては、大阪城、二重橋……宮城<きゅうじょう>、それから日光の東照宮ぐらいなものでしょう。ところがこれは根本が違うのです。あっちのほうは、その時代の英雄が、その時代の権勢を誇らんがためと、自分の政権、主権を維持せんがための……戦国時代ですから……戦争の防備です。
だから大阪城も二重橋も、戦争の防備と自己の権勢をみせびらかすという目的だったのです。それから東照宮は、三代将軍が徳川は三代になってもこのとおりだということを見せるためと、また一説によれば、まだ秀吉の勢力が残っていたから危ない、そしてその大名が秀吉方と紆<かん>を通じて徳川に反抗する気勢がないとも言えない。それには彼らの懐をさびしくしてやろうというので、ああいう金のかかる物を造って、各大名の金を吸収するのだという策略もあったということになってますが、どこまで信をおけるかしれないが、そうとうあったには違いないと思います。そこであれはただ金さえかければよいというので、芸術的価値はないのです。ですから外国には認められてないのです。そういうようなわけで、日本にあるそういう物の目的というのは、本当に民衆のためにということはないので、要するに邪念が根本になってます。つまり自己愛です。ところが私が造る地上天国というものは、本当に平和的で、民衆が楽しみ、そうして魂を清浄に、高くするという目的で造ったものです。いままでそういった目的でこういう物を造った人は世界中にないです。ヴァチカンにしても宗教的です。その宗教を宣伝する意味と、その信者がいろいろなものを献<あ>げたので、自然にああいうものができてしまったのです。そういうようで、本当に平和的に、大衆のために立派な良い物を造ったということは、世界始まって以来初めてですから、その意味においてたいへんな価値があると思います。これからは世界中でまねをするでしょうが、その意味のことを、この間来たアメリカの新聞記者のグリリという人はさかんに言ってました。さすがはアメリカ人だと思いましたが、自己の利益は少しもなく、民衆のためにやったということは、日本人としては非常に珍しいと言ってました。箱根は規模が小さいが、熱海の美術館は、ともかく世界に誇るに足るものと思います。
(御講話おわり)