四月二六日、法大文学部長、美術評論家谷川徹三氏が来訪され、明主様にはお親しく御款談遊ばされました。
この日谷川徹三氏は、四月二一日開館された箱根美術館に立ち寄り、数々の美術品を鑑賞、午後五時三〇分碧雲荘に到着。待つ間もなく明主様には奥様御同伴にてお出ましになられ、たちまちにして美術のお話に座談の花が咲いたのであります。この間約二時間半にわたり、明主様には殊のほか御機嫌お麗わしく拝せられました。以下そのときの模様をお伝えさせていただきます。
ちなみに谷川徹三氏は昨年の美術館開館にあたり著名人御招待の際、祝辞を述べられた方であります。
なお谷川氏のほか、『栄光』第一九三号にて御紹介申し上げた、報知新聞社事業部長小西元夫氏、同編集局員小坂嘉一郎氏のほかカメラマン一名の三氏が同行されました。
【 小坂氏 】 お約束の時間を一時間半遅れましたのは、一時間半よけいに美術品を拝見しておりましたのです。お約束がありましたので、早くと思っておりましたが、谷川先生なかなか動きませんものですから。
【 谷川氏 】 やっぱり丸一日かけないと全部は拝見できませんね。
【 明主様 】 そうでしょう。ですからあれでは品物が多過ぎると言う人がいます。あんまり多いので疲れてしようがないと言ってます。
【 谷川氏 】 そうですね。ですから上野の博物館に行くときも、二室か三室見ることにしてます。全部見たらとてもやりきれません。その点ブリヂストン美術館とか近代美術館は、部屋が少なく、陳列の数も少ないので、たびたび行くことになります。
【 明主様 】 それにあそこは便利ですからね。
【 谷川氏 】 そうです。去年の開館にお招きいただいてから、二度ばかり家内を連れてまいりましたが、そのときはまだ庭造りの人がやってましたが、今日拝見しますと全部できてますね。
【 明主様 】 それに別館もできました。別館では六月一日から浮世絵展をやります。
【 谷川氏 】 そこはこれから浮世絵展ばかりにお使いになるのですか。
【 明主様 】 そうではないので、特殊なことに使います。
宗教と芸術について
【 小坂氏 】 こちらにまいります車の中で谷川先生が「この事業を宗教団体がやっているということは、新しい時代現象だ、いままでの日本の歴史を通じて画期的なことだ。これに対して国家的に理解を深めなければならない」ということを言われてましたが、われわれも賛成です。非常に良い事業だと思います。いまの宗教団体では、大学を造ったり幼稚園を造ったりしてますが、これはだれでもやっていることです。こちらのいまやっておられる御事業は、コレクションだけでもたいへんなことなのですから。
【 明主様 】 私はこう思うのです。宗教と芸術は離れるべからざるものです。とにかく宗教というのは天国を造るのが目的ですから、それには大いに芸術面に働きかけなければなりません。ですから戦争がなくなる時代となれば、芸術が中心となります。昔には聖徳太子もそうとうやられましたが、聖徳太子は仏教を日本にひろめた元祖のようなものですが、仏教芸術を一番の方法として仏教をひろめたのです。そこで私は、聖徳太子が日本仏教をやり始めたように、聖徳太子を世界的にするような意味で、世界的のものを造るのです。特に日本人の美的感覚の深さというものを、大いに世界に認識させる必要があると思うのです。箱根の美術館は試験的にやったつもりですが、どうやら見られるようにできました。今度は熱海に造ろうと思ってます。
【 谷川氏 】 しかしあれはそうとうなものですね。殊に箱根のような所にお造りになられたことに意味があると思います。箱根には外人がたくさん来ますが、外人目当ての安っぽい土産物を並べてあるところに、美術館でああいう良い物を並べるということは、非常に意味があると思います。
【 明主様 】 その次には、いずれ京都に仏教美術専門の美術館を造ろうと思ってます。
【 谷川氏 】 熱海にも京都にもですか。それはなかなか雄大ですね。これは一つ大いにやっていただきたいですね。
【 奥様 】 でも今日(京)すぐにというわけにはゆきませんね(一同大笑)。
【 明主様 】 日本の仏教彫刻は世界一の物で、世界に誇るべきものですからね。
【 谷川氏 】 そうですね。
【 明主様 】 しかし、なにしろ一番苦しむのは金です。これで年中楽しみと苦しみの両方を味わってます。
【 谷川氏 】 しかしいまこれだけ買える所は、ほかにはあまりありませんでしょう。とにかく博物館にしても実にわずかの購入費しか持っていないのですからね。
【 明主様 】 ですからつい無理をしてしまうのです。私のほうで買わなければアメリカに持って行くというのがチョイチョイあるので、それをくい止めなけれはならないのです。その国家に対する功績はよほど認められてよいと思います。
【 谷川氏 】 そうです。
【 小坂氏 】 それに税金をかけようというのですから、たまりませんね。
【 明主様 】 そのために財団法人にしているのです。そこで宗教で購入して、財団法人のほうに寄付すればよいのです。
【 小西氏 】 谷川先生が美術館で一番長く時間を取って見られたのは仏像です。牛が中にはいっているのがありますが、牛を外に出して見られ、写真を撮ってくれとか言われ、これが一番長くて三時間でした。私たちは足が痛くなって、三人とも逃げ出してしまいました。
【 小坂氏 】 それでもまだ時間が足りないと言っているのですから驚きますね。今日は外人が奥さんを連れてみえてましたが、たいへん結構だと思います。とにかく世界中の人が来て、ああいう美術品を見て行くのは良いことと思います。これは外国のほうに先に有名になるかもしれませんね。ただ外国の人たちには説明がつかないと分かりにくいのではないかと思いますが。
【 明主様 】 そういう説明者のこともだんだん考えております。
【 阿部執事 】 今度の浮世絵展には近藤市太郎さんが書いた説明がつきます。