昭和二十八年 四月一日 垂録19(1)

【 明主様 】「乾山代々を偲ぶ会」というのを一四日から三越でやります。品物を借りに、いろいろ目録を書いてきたのです。「乾山代々を偲ぶ会」というのですから、やっぱり光琳、光悦、宗達というのでしょうが、ほうぼうから一点か二点ずつ集めればありますが、私の所に来ればまとまっているから非常に世話がありません。それで十数点貸してくれというので、だいたい貸すことにしました。

 

〔 質問者 〕先だって熱海の新聞に重要文化財ということで出ておりましたのはどういう物でございますか。

【 明主様 】冗庵<ごつたん>という支那の宋時代の坊さんのものです。まだいろいろ重要文化財になるのがあるのです。洋人奏楽の屏風です。もう一つは布袋の茶掛がありましたが、それも重文になると言ってます。しかしお役人がやることなので、なかなか手間がかかります。それから岩佐又兵衛の二巻の巻物もなります。だんだん品物はなくなってしまうので、なくなるに従って望みというのは増えて、値段ばかり張っています。いま聞いたのですが、因果経の五〇行が売りに出たのです。私は知ってますが、どんなに高い値段になるか分かりません。

 

〔 質問者 〕昨日大塚巧芸社の因果経の複製を拝見させていただきましたが、たいへんに良くできております。

【 明主様 】良くできてます。ずいぶん売れるでしょう。ああいうのは世界中に売れます。「湯女」もたいへんです。これは浮世絵では日本一です。「彦根屏風」と「松浦屏風」と「湯女」の三つが一番ですが、その三点の中でも「湯女」が一番だそうですから、世界一の物です。アメリカでもあれは評判になっているそうです。

 

〔 質問者 〕いつごろ日本に帰りますのでございましょうか。

【 明主様 】今年一年ですから、早くて暮れでしょうが、来春には帰るでしょう。私のほうで持っている美術品というものはどこまで高くなるか分かりません。私は最初から一級品を狙ったのです。琳派物でもいまはたいへんなものです。後ではもうできないのですから、どこかへはいってしまえばしようがないです。それでいま美術品愛好というものは世界的に流行してます。今度の浮世絵展でも、浮世絵の良い物が集まりました。ですからいまに浮世絵の良い物もたいへんなことになります。ところで浮世絵の肉筆のほうが安いのですから、そんなばかなことはありません。それで私は肉筆を狙って、安いうちに買ったのです。ところがいまは肉筆もだいぶ高くなってきました。これは神様がやっているのですから、実に不思議ですが、今度はエジプト、ギリシア、ペルシアの物が集まってきてます。それがまた安いのです。しかしこれはいまに高くなるだろうと思います。なにしろ三〇〇〇年前の彫刻ですから、日本の天平、奈良朝よりもっと古い物です。

 

〔 質問者 〕いつごろ日本に渡来したものでございましょうか。

【 明主様 】分かりませんが、明治ごろに外国に行った人が珍しいというので日本に持ってきたらしいので、徳川時代にはなかったでしょう。明治以後に外国に行った人が珍しいので持ってきたのでしょう。エジプトではそういう物はいっさい国外に持ち出すことを禁止したそうです。ですからこれからは駄目です。それでエジプトの墓を掘ったりしたのでしょう。それはみんな三〇〇〇年以上のもので、その人の愛好品を中に入れたものなのです。ですから中国も、中共政府が去年あたりから墓をあばいているのですが、そこには貴金属があるので、それを掘り出して財政を補おうと思っているのです。それはエジプトも、ピラミッドの中の王様の墓には良い物が埋まっているのですが、それがまたなかなか良くできているのです。陶器なども実に良い物です。今度美術館に出します。それからギリシアの壺で、二〇〇〇年以上前の物ですが、裸体の女が踊っている模様になっているのです。ですからその時分にストリッパーがあったのでしょう……これは新しいものと思ったら大違いです。なかなか良く画いてあります。黒地に肉色で踊っているのが出ているのですから、いま見ても、実にいま画いたようです。ああいうのを写真版にしてなにかに使ったらおもしろいと思います。二〇〇〇年前のストリッパーということで……。二、三カ月前に一五〇〇年くらい前の支那の六朝時代の石でできた三尊の弥陀<さんぞんのみだ>があるのですが、それが学会の問題になって、学者が調査した結果、最高の物なのです。日本では勿論ですが、外国でも一級品だろうというのです。それで研究して、そのために本を一冊こしらえて、それを引き受けてくれと言ってきましたから、冗談じゃない、私のほうはそんな物は読みたくないと言ったのですが、なかなかたいした物です。今度美術館に出しますが、ペルシアの経本<きようほん>で、羊の皮でできていて、それに金でペルシア文字が書いてありますが、実に良くできてます。まるで印刷したようにきれいです。それが何十枚もあります。おもしろい物です。翻訳でもしたらなかなか意味があると思います。それが良い箱にはいってますが、その箱がまたばかに良いです。彫刻になっていて、金をはめてあってたいした物です。

 今日から、油絵では一番古い光風会の油絵の展覧会を上野でやってますが、参考品として品物を借りに来たので、三つばかり貸してやりました。それは石でできていて弓を射っている彫刻と、ギリシアの壺とで、これは良い物です。獣が画いてあって、まるでいまこしらえたようです。非常にモダンです。美的に見ても実に立派な物です。それが約二千何百年か前の物です。

 

〔 質問者 〕ブリヂストン美術館で、フランスから松方さんが持ってきた物を陳列してあるそうで、それを一度ぜひご覧いただきたいと申しておりました。

【 明主様 】ぜひ見ましょう。しかしコレクションの一部でしょう。まだ大方はフランスの政府が押さえているのです。それは少し遅れてくるようです。今度来たのは一部で、もっとあるそうです。油絵の良い物で少し古い、後期印象派の値段というのはたいへんな物だそうです。

 

〔 質問者 〕七五〇万とか聞きました。

【 明主様 】それは安いほうです。ただみたいなものです。アメリカのそういった物は三〇〇〇万円から四〇〇〇万円です。それでどんどん売れるのです。一〇〇〇万円くらいのはザラでしょう。しかし値打ちがないこともありません。この間私は京橋の近代美術館に行ってきましたが、やっぱりブリヂストンの品物を貸し借りしてます。セザンヌの人物ですが、まったく良く画いてあります。あれを見たら、日本の洋画はまったく子供のようです。セザンヌ、ゴーガンの後期印象派ですが、実にうまいです。しかし、うまいとはいっても、あれは日本の光琳から出たのです。写楽、歌麿から出たので、その元はやはり光琳ですから、ああいう絵が三〇〇〇万円からするとすれば、光琳は五〇〇〇万円から六〇〇〇万円ということに、いずれなります。それより光琳のほうがうまいのです。

 今度三越でやる「乾山代々を偲ぶ会」というのは、イギリスの陶芸家でバーナード・リーチという人が乾山崇拝なのですが、この人が見たいというのでこの会をやることになったのです。それでこのリーチが自分の作品をいろいろ持ってきたそうですが、全部売れてしまったそうです。この人が崇拝しているのは乾山の陶器なのです。この間私のほうにある乾山の五、六点を貸すことにしました。結局リーチも乾山のまねをしたわけなのです。だから日本の美術というものがだんだん世界に分かってくるわけです。いま浮世絵の肉筆の良い物がそうとう集まりましたが、それは実にうまいものです。あれを見たら、西洋のどんな絵でもとても比べものにはなりません。北斎にもうまい物があります。いずれ美術館に出しますが、それはうまい物があります。岩佐又兵衛、宮川長春にも実にうまい物があります。いまはまだ安いですが、これが世界的に分かってきたらたいへんなものです。戦後財産税やなにかで安かったのが、いまはたいてい一〇倍から二〇倍です。金儲けのほうからいくと、私はずいぶん腕があったのです。ところが儲けるつもりで買ったのではないのです。なにしろ私は良い物で最高の物を集めるが、それが当たったのです。三級四級というのはそう高くはありません。かえって安くなったでしょう。二つとない最高品はどんどん上がって行くのです。歌切れのような物でも、私はぜんぜん知らないのです。それでも見た目が良いですから、歌などはどうでも良いのですが、表装が良いので狙ったのです。ところがいまになってみると、表装が良いのは中の歌も良いのです。やっぱり歌が良いから表装も良くしてあるのです。それで買い損ないはなかったのです。それで私は光琳、乾山、仁清の物が好きで、そういうのを狙って買ったのですが、それが一番人気があるのです。それからおもしろいのは曼陀羅ですが、これはたいてい双幅のもので金剛界と胎蔵界を画いたものですが、金剛界と胎蔵界というと日と月で、日のほうが金剛界、月のほうが胎蔵界です。箱根の美術館にも、金で細かく作ってあるのがありましたが、もっと古いのは藤原、鎌倉の初期です。見ると、実に細かく画いてあります。ところがそれが五、六年前は、高いので一幅六、七万円でしょうが、それがこのごろは、それよりもっと悪い足利時代の物が五〇万円ぐらいはしましょう。

 道具屋の話のようになりましたが、これでは信仰の話は出てきそうもないからこのくらいにして、質問をどうぞ。

「『御垂示録』十九号、岡田茂吉全集講話篇第九巻p58~63」 昭和28年04月01日