教集19 昭和二十八年三月七日(1) 

三月七日

 スターリンが死んで、新聞やラジオでいろんな批評がありますが、べつにたいした批評の必要もありません。今日のニュースではさっそく内閣ができたようで、やっぱりマレンコフが首相でモロトフが副首相ということになりましたが、これはもう前からすっかりできていたとみえて、非常に手際良くスラスラとできたらしいのです。ところで問題は、スターリンのやり方に対して、マレンコフはどういうようにやるかということですが、当分は踏襲<とうしゅう>するでしょうが、そのうちに個性を発揮することになるに違いありません。今日あたりの新聞を見ると、だいぶマレンコフの役目などでも、そうとう勢力的になってますから、やはりそうとうに信用もあるとみえます。だからかなりの思いきったことをやるだろうと思ってます。それでどっちかというと、スターリンという人は慎重居士です。非常に慎重でした。年をとっているせいもあるでしょうが、割合に考え深いのです。しかしマレンコフのほうは今年五二歳ですから、まだ年も若いし、そこにもっていって、写真で顔などを見てもものすごい顔をしてます。そうとう自信があるという顔です。やっぱり人相でああいう人の見当がつきます。アメリカのトルーマンという人はどうしても俗人型です。大統領型ではありません。つまり後生<ごしょう>大事型というわけです。前のルーズヴェルトは英雄型でした。だからトルーマンはやっぱり人相のとおりのやり方でした。ところが今度のアイゼンハゥアーとなると、なにかやらなければ収まりがつかない顔です。あの人の笑ったときの顔などをニュース映画で見ると、くらいつきそうな顔です。だからどうしてもただではすまないのです。なにかやらなければならないという顔です。はたして朝鮮問題に対する積極政策ということも、よく顔のとおりに出ていると思います。ところがスターリンの顔は、そうとう大人物という形の代わりにパッとはしない顔です。チャーチルなどの顔はパッとしてますが、スターリンのほうはどこかに薄暗いところがあります。もっともいままでの経歴からいってもそうですが、あの人は八回牢獄にはいって、六回逃走したそうです。だからその経歴からいっても、どうも明るい顔にはなりません。だから顔のどこかに暗さがあります。その代わり思慮の探そうなところが現われてます。それで剛腹<ごうふく>で、きかないというほかに、なおかつ、なんでも持ってこいというような剛腹な、馬鹿にできないような、要するに押しのきくような顔です。だからあれだけのことをしたのです。それで今度のマレンコフの顔は、とにかく胆力が満ちている、精悍<せいかん>あふれるという顔です。あれも、なにか仕事をしなければ収まりがつかない顔です。だからむしろスターリンよりか積極的に出ると思います。しかしまた、そのほうがたいへんいいのです。

 そうするといよいよアイゼンハゥアーと組み合うということになるでしょうが、かみつくのはアイゼンハゥアーのほうが上かもしれません。狼とライオンというようなことになりますが、そうするとアイゼンハゥアーのほうではどうしても喧嘩をふきかけます。台湾の国民軍なども上陸作戦の演習をしているということを言ってますし、それから日本に弾丸を何千万発という注文が来て、契約を結び、金高にして二億何千万円というのですから、そうとうの人間を殺せましょう。そういうようにアメリカが積極的に出るとすると、マレンコフはなかなかスターリンのようにジリッとしないで、「よし相手になろう」と言って乗り出すというように見えますから、かえっておもしろいと思います。おもしろいと言うと変ですが、そのほうが早く片がつきます。ですからスターリンが死んだために、気の早いのは、まるで平和が回復でもするように思う人もあるようです。ヨーロッパの方面にもそういうように思っているのがだいぶあるようですが、それはとんでもない話です。スターリンが死んだからといって、アイゼンハゥアーの方策が変わるものではないので、どこまでも行くのです。なにしろ北鮮と南鮮がああして分離しているが、それはなぜかというと、中共が北鮮軍を押さえて分離させているのです。だからこれをこのままほうっておくわけにはいかないので、アメリカの作戦としては中共に北鮮から手を引かせて、南北の手を結ばせるということをどうしてもしなければならない。それからもう一つは、アメリカは中共政府を最初から承認しないし、またいまもって承認してないのです。つまり本当は蒋介石<しょうかいせき>政権が中国を統治しているのが本当だというわけです。それを侵略によって奪取したのは承服できないというわけですから、朝鮮を合併させるとともに中共をやっつけて、元の蒋介石政権にさせるということを、どうしてもアメリカはやらなければならないのです。そうすると、それをやるには戦争をしなければならないのです。そうなると中共もそうとう準備ができてますから、そうとう激しくもあるし、そうとう大きさもあります。それに対してスターリンは、いつかも話したとおり武器と金を貸すというくらいのところで、ソ連の軍隊が立ち向かうということはないわけです。だからもし中共がやられてしまうまでも手を出さないということは前に話をしたことがあります。ところが今度のマレンコフは、スターリン式にそれまで我慢するかどうかということが、問題の焦点になるわけです。けれどもだいたいの方針というものは、スターリンからふだんから聞いているでしょうから、やはりスターリン式に手を出さないで、そうして中共がアメリカにやられてしまうと、やはりアメリカは疲れますから、その虚に乗じてヨーロッパ進撃をやると思うのです。これはスターリンの戦略なのですから、それをそのとおりにマレンコフがやるかどうかということですが、たぶんそうやるでしょう。それは大局から言ってもそのほうが有利なのです。そうしてスターリンの計画は英国の占領なのです。私はスターリンから聞いたわけではないが、だいたいは分かるのです。ラジオのニュース解説のときのような話になりましたが、このくらいにしておきます。

▽次節に続く▽

「『御教え集』二十号、岡田茂吉全集講話篇第十巻p69~72」 昭和28年03月07日