昭和二十七年十月二十五日  『地上天国』四十一号

明主様とダヴィッド女史 ジャーナリスト会見記

 既報『栄光』第一七三号に所載されまして、みなさまご存じのマドレーヌ・ダヴィッド女史はフランス、パリ・セルニスキー博物館の副館長をつとめ、東洋美術の権威者であり、さらに日本美術研究のため来朝、去る八月二二日、外務省田付たつ子女史、報知新聞社取締役社長竹内四郎氏、同編集局長森村正平氏、読売新聞社社会部渡辺昌司氏らとともに、箱根美術館を参観、非常な感銘をうけ、さらに美術館三階の日本間において明主様御引見、たちまちにして座談の花が咲いた。その間一時間半に及んだそのときの模様を、速記によってお知らせ申し上げます。

世界の二つの美術国

明主様 あなたのことは新聞でよく拝見しました。あのとき私もぜひお見せしたいと思ってました。日本にはそうとう前からですか。

ダヴィツド女史 今年の二月にまいりまして、来年の二月ごろまでおります。

田付女史 ユネスコの関係で、その代表してまいりまして、日本の美術に明るい方でございます。

明主様 この美術館は日本のを揃えてありますから、いつでもおいでになって充分御研究なさってください。

ダヴィッド女史 びっくりいたしております。見たこともないような物がありましたので、写真をフランスに送りたいと思いましていろいろ御迷惑をおかけしております。たびたび御厄介をさせていただきます。 阿部執事 「因果経」と「湯女」を現寸法でユネスコに送ってくれと申しておられました。それが世界中にまわるそうでございます。

明主様 それは良いです。

阿部執事 一一月ごろまでかかるのではないかと思います。

ダヴィッド女史 かまいません。パリにあります東洋美術の博物館に送っていただきましたら、すぐに陳列いたします。

明主様 美術ではフランスは非常に親しいですから……ヨーロッパではフランス、東洋では日本ですから……。世界の二つの美術国でしょう。

ダヴィッド女史 その通りだと思います。

明主様 美術を大いにさかんにするということは、やはり思想的にも非常に良いと思います。

田付女史 この方はずーっとグルッス博士の右腕で、一人で博物館の配置やなにかもいたしております。まだお嬢さんでございまして……東洋美術と結婚なさったのだそうでございます。それであっちに飛び、こっちに行きいたしておりますが、支那にはまだ行かないそうです。

明主様 それに支那は珍しい物はないでしょう。

ダヴィッド女史 北京の博物館にはあると思います。

明主様 あるでしょうが、しかし良い物は蒋介石が持って行ったでしょう。支那美術はアメリカあたりのほうが多いです。

ダヴィッド女史 そうでしょうね。

阿部執事 仁清の重茶碗<かさねちやわん>が気に入りましたようです。

明主様 やっぱりね。デザインが新しいですからね。

田付女史 青磁のお茶の茶碗が気に入りまして、盗みたいと……ひっくり返っても、半分も買えないそうで、しかたがないので……ということになりまして。

明主様 どうぞ(お笑いになる)。

フランスに生きる光淋

明主様 フランスでも展覧会をやりたいと思ってますが。

ダヴィッド女史 日本の美術展をパリでやり、それで東京でフランスの美術展をやりたいと思ってます。

明主様 日本美術というものは、いままでほとんど外人の目に触れることは、あんまりなかったのです。つまり日本の美術品は金持ちや華族……そういう所の倉にしまってあって、人の目に触れることを嫌がっていたのです。それですから日本に来て見たいと思っても、わずかは見られますが、点々とほうぼうに散在してますから、ぜんぜん見ようと思ってもできなかったのです。それで私は、そういった美術をだれにも楽しめる機関を作らなければならないというのが、この美術館の根本です。ですからいままで見れなかったという、そういう物をできるだけ見せたいと思っていろいろ苦労しているのです。それで私はいままで光琳、光悦、宗達、乾山などの物を一番主にして蒐めてきましたから、その展覧会をやろうとも思ってます。いまマチスとかピカソとかいっても、結局元は光琳ですからね。

ダヴィッド女史 そう思います。日本の美術は、フランスの現代の美術に関係がありました。光琳のは写真だけ見ました。フランスで光琳の絵を見ますが駄目です。フランスの現代の美術に大いに研究となりました。

明主様 そうですね。琳派の掛物では、宗達のがたくさんありますから、それを出します。これは非常に参考になると思います。

ダヴィッド女史 女の人でもう一人パリで研究している人が最近来ますので、二人でぜひ伺わせていただきます。

明主様 日本人が絵を習おうと思ってマチスの所に行ったところが、お前はなにもフランスまで来る必要はないではないか。日本には光琳という立派なのがいる。光琳がオレの先生だ。だからわざわざフランスまで来る必要はないと言ったそうです。

田付女史 マチスもだいぶ年を取って、もう駄目になったらしいようです。

ダヴィッド女史 光琳の前の日本の美術については本当に知りませんでした。

明主様 それは見る機会がなかったからです。
ダヴィッド女史 そうですか。日本の美術の展覧会がどうしても必要だと思います。

明主様 そうです。

ダヴィッド女史 フランスには金襴手<きんらんで>が少ないのです。

明主様 支那のですか。そういえば私の所に図録がありますが、ないです。金襴手は、アメリカ、イギリスにも少ないです。あっちにある金襴手はごく近代です。康煕<こうき>から乾隆です。二〇〇年くらいからはありますが、金襴手というのは明<みん>ですから、四〇〇年くらい前です。それはないです。あれは日本人が非常に珍重して昔日本に輸入されたとき、大名が大切にしていたのです。それから青磁の良い物もあんまりないです。アメリカ、イギリスにもありません。イギリスにある良い物は朝鮮です。あれは日本以上の物があります。均窯は日本にはあんまりありませんが、青磁はあります。しかもイギリス、アメリカは土中物といって、土の中から出した。日本のは伝世ですからぜんぜん違います。ですからお茶の茶碗で玳玻盞<おうひさん>というのがありましたでしょう……鳳凰の画いてある、あれが伝世といって土に入ってないのです。それがたいていは土に入っていたのです。

阿部執事 アンダーソンの壺はフィンランドにあるそうで、三〇〇〇年前とかの物が非常に多いそうです。日本には非常に少ないそうです。

明主様 そうです。

田付女史 この間支那人に会いまして聞いてみますと、日本にはたしか二つある。一つは箱根で、一つは京都だと言ってました。

阿部執事 牡丹蝶文吐魯瓶<とろびん>を良いと言われます。

明主様 あれは良い物です。あれはアメリカの雑誌に出てますが、あれの悪い物もあるのです。良い物は日本で、大阪の白鶴です。白鶴美術館には良い物があります。

ダヴィッド女史 サンフランシスコには持って行きましたのですか。

明主様 ロサンゼルスには持って行きました。

ダヴィッド女史 ユネスコに援助していただきたいと思います。ユネスコのほうでも今度こっちで報告しますので知れますから。

明主様 美術をやるということは、思想的にいくぶんの良いことになりますね。

田付女史 ユネスコは一生懸命になっておりまして、浮世絵の良い木版で、いままで出てない新しいのを五〇枚私のほうの役所に言ってまいりましたが、全部の版を買う金がなくてずいぶん心配しましたが、できたのを見まして、きれいだというので、もらうということになりましたそうです。

明主様 日本では版画の良い物を選<よ>って作っているのがありますよ。

田付女史 東洋美術協会で非常に喜んでやってくださいました。世界中にまわるそうでございますが、版画ばかりでは日本の美術とは言えませんので。

明主様 結局良い画帖を作ろうと……私はいずれそれをやろうと思ってます。日本で有名な物を写真版にそうとう作って、各国のそういう所に……。日本には良い物がたくさんありますからね。

ダヴィッド女史 奇蹟的と言っても良いくらいすばらしいお考えだと思います。

阿部執事 因果経は奈良のほうが良いのではないかとおっしゃっておられました。

明主様 そう言ってはなんですが、あのほうが悪いのです。ここのほうが一番先にできたのです。

ダヴィッド女史 そうらしいですね。

明主様 あのほうがその次です。奈良のほうのは美術学校の所蔵になってますが、天平時代でも前と後と両方できて、後のが奈良の博物館に出ているのです。較べてみればすぐ分かります。

ダヴィッド女史 因果経が一番好きです。どうも日本の絵は、全部そこから出ているような気がします。

明主様 それはなかなか慧眼です。本当にそうです。因果経から出て、それから大和絵に。

ダヴィッド女史 大和絵の元ですか。

明主様 そうです。なかなか良く知っておられる。因果経から大和絵になって浮世絵になるのです。その因果経から大和絵になった一番最初のが私の所にありますから、いまお見せします。そこまで解っていれば、たいしたものです。日本人でもそこまで解っているのは少ないです。

メシヤ教と美術館

新聞人 教主はずいぶんお精しいようで。

明主様 私は若い時分から好きで、ずいぶん研究してます。

新聞人 教主がご覧になると、これは贋物かどうかということはお分かりになりますので。

明主様 すぐ分かります。

新聞人 つかまされたことは。

明主様 最初はありますが、しかしすぐ分かります。

新聞人 メシヤ教と美術館のほうとの関連はどういうことになりますので。

明主様 表面的にはぜんぜんないけれども、これだけのものを造ったのは、やはり信者がみんな金を献金しているのです。しかしメシヤ教というのはぜんぜん関係ないのです。こういう美術館というのは、国家としても非常に必要なのです。ですからこれに対して、文化財保護委員会も非常に喜んでます。こういうものが国家にはどうしても必要だと言ってます。

新聞人 非常に良い場所にできましてびっくりしました。

明主様 そうです。場所も良いです。それに外人は箱根には必ず来ますから、そうすればここは嫌でも見ます。それが一番です。ところがいままでは個人ではなかなか見られなかった。ですから一般的のものが、どうしても必要なのです。

新聞人 メシヤ教は美を非常に尊ぶということは。

明主様 それは真善美ですから、美というものは必要なのです。私のほうでは宗教と芸術というものは、切っても切れないものだと言っているのです。つまり宗教というのは、人間の心を良くするのです。つまり思想的に向上させるのです。それには美の働きをさせる、高める。それから耳からも目からもやる。ところが、今日目から入るものは向上するより低くするほうが多いです。いろんな……ストリップとかも結構ですが、その間に、高める良い物をというのが非常に考えられる。『読売』の谷川徹三さんの記事は非常に宣伝になったようです。

新聞人 展覧会があったときは批評家に来てもらって一度見てもらい、新聞に書くとともに、美術雑誌に書くようにしたらよろしいでしょう。

明主様 『芸術新潮』に出てます。

新聞人 やっぱり専門の芸術雑誌に美術館だけを取り上げるようにする。例えば箱根美術館の特集号を出すようにしましたらよろしいと思いますが。

明主様 だんだんそうしましょう。しかしいま外国人に大騒ぎをやられると、日本人も大騒ぎをやるのです。映画の『羅生門』と同じです。私も最初はたいしたものと思わなかったが、それを聞いて見直してみたらなるほど良いです。美術館の美術品もそれと同じことでしょう。
(このとき釈迦八双四幅対の掛物を見せられる)

ダヴィッド女史 たいへんおもしろいです。

明主様 そうでしょう。つまり仏画から大和絵になるところです。これが鎌倉時代の初期です。ですから藤原時代の感じが良く出てます。

ダヴィッド女史 そうですね。作者は同じですか。

明主様 そうです。

ダヴィッド女史 同じ時代ですね。

明主様 そうです。

田付女史 箱根の美術館は、早いこと外国のほうに有名になるかもしれません。ユネスコのほうで手をつけますと、日本人のほうがそういうのがあったそうだと飛び込んで来なければならないようになるのではないでしょうか。

明主様 やっぱり舶来崇拝もなかなか抜けないでしょう。

新聞人 ここの設計は教主ですか。

阿部執事 二日くらいでおやりになられました。それでケースの大きさなども、なにをどこに並べるかということから、なにはいくらの寸法、という具合で。

ダヴィッド女史 実に良くできてます。すばらしいです。

新聞人 ここに来て、見せていただいて寝ころがっていたら。

田付女史 新聞社の編集室や役所とはだいぶ違いますね。

明主様 たまには涼みに来たら良いです。とにかくここの位置が箱根では一番です。箱根では強羅です。他では四方見下ろしということができないです。強羅はそういった風景ですが、秋になると海が見えます。三浦半島から……。それで強羅の真ん中がちょうどここです。日本では箱根が、日本の公園としては一番ですが、ここが箱根中で一番ですから、ここは日本中で一番だろうということになります。つまり箱根の重要地帯を利用したのです。私は先から美術館を造るとしたら環境の良い所をと思っていました。環境とのマッチがなかなかです。

私の弟子はキリストの奇蹟をあらわす

田付女史 一〇年ほど会わなかった男ですが、今度会員となって御面会をいただき、御浄霊をいただいて帰ったところ、なんだあんなつまらないことをと思っていたそうです。その男にはイボが三つありましたのですが、明くる日に髯をそろうとしましたら、イボがなくなっていたそうです。で、奥さんにオレのイボをどこにやったと言ったそうですが、オレは不思議ということは考えないのだが、なんにも苦労をしないでイボがなくなったということはどういうわけだ。そんな馬鹿なことがあるかと私に怒るのです。ですから、最近お伺いするから、イボがどこかに行くものか伺ってきてあげると言ったのです。

木原先生 いまの世の中の人の議論的考え方を代表しているようでございます。

明主様 いまそれ以上のことがあります。今度『栄光』一七一号に出しますが、一〇分間息が止まって死んで、それが生き返ったのです。それを今度出します。

新聞人 病気で死んだのですか。

明主様 病気で死んだのです。医学でだと、大々的に出しますが、われわれのほうでのことは鼻クソほどです。

新聞人 教主がやりましたのですか。

明主様 私でなく弟子がやったのです。私の弟子はキリストの奇蹟くらいのことは毎日やってます。それを知ったらたいへんですよ。

新聞人 ウーム。

明主様 脈が一〇分間止まったのですからね。

新聞人 そういうことが毎日のようにあったらたいへんですね。

明主様 そうですよ。それを考えれば美術館なんか、なんでもないです。いま私は『文明の創造』という本を書いてますが、これは世界中の大学やいろいろの方面に配ります。

新聞人 一冊にしてですか。

明主様 そうです。

新聞人 そうとう長いものですか。

明主様 そうですね、何頁くらいになりますか。二、三百頁でしょう。それを書いて、いままでの文明は仮の文明だ、本当の文明ではない。本当の文明はこういうものだ、ということを書きます。いろいろありますが、今度出版するのもたいへんと言えばたいへんですが、『結核信仰療法』というのですが、これも出たら問題になります。というのは、結核は医学が作っているという説なのですから……。それから結核は伝染しないということをすっかり立証的に書いてます。これはそうとうのセンセーションを起すと思います。そして新聞広告もするつもりです。

新聞人 「生命の実相」ということを谷口氏が書いてますが、どうお考えですか。

明主様 私は問題にしていません。新しい説は一つもありません。古い『聖書』や仏教の意見やなにかを総合して書いているのです。しかしあれでもただ、唯物的思想に対して唯心的思想を吹き込むだけのことはできてますから、これは結構です。そういった意味で非常に賛成もしてます。ですからそういった、つまり霊的文化に対する一つの入門の手引きというような形式があるわけです。私がいま言う『文明の創造』というのは、宗教とかそういうものに対する大学の講義というか、そういったものです。

新聞人 そういうのが一つになって運動を起そうというのがあるのではないでしょうか。

明主様 ありません。

新聞人 この間代議士の花村四郎氏に連れられて立正佼成会の会長に会い話を聞きましたが、病気は心にあるわだかまりを吐き出してしまえば良くなるという話をしてました。

明主様 だいたいあそこはそう言うのです。私の説くのはあんまり桁が外れすぎるのです。ちょっと話がしにくいくらいなものです。だからメシヤ教の説というと、あんまり桁外れなので、かえって誤解を受けることがあるくらいです。

木原先生 「新宗連」で集まりましても話ができませんので、黙って聞いているよりしかたがありません。話しますと相手の痛手になりますからら

明主様 そうです。だからウンと割引して話さなければならない。おおげさに言うとか言いますが、あべこべです。よほど加減しているのです。

田付女史 カルティエさん(この人は一ヵ月ほど前明主様と御面会された有力なフランス人です)から手紙がまいりまして、忘れられないお方で、そうして心の中に非常に残っておられると、よろしく申し上げてくださいとのことでした。

(註)まだお話はつきないがあまり長くなるから以下略す。

「昭和二十七年十月二十五日  『地上天国』四十一号」 昭和27年10月25日