〔 質問者 〕みんな湿気が来ないかと心配しておりますが。
【 明主様 】湿気は大丈夫です。それは研究してます。箱根でふつうの戸棚に入れて、去年一年でなんともないんです。熱海のほうは二、三黴が生えてます。ですから熱海の空気は悪い。一番困るのは倉染みです。大名の倉に何十年も入っているのは黄色くなりますが、あれは取れない。倉染みでないのは、ほとんど取れます。蒔絵のほうは乾燥が恐いんです。蒔絵の乾燥は、人はあまり気がつかないが恐いです。浮いちゃうんです。そこでアメリカ人が、蒔絵にあんまり目をつけないのは、そういうわけです。アメリカは非常に空気が乾燥しているんです。だから、アメリカに持って行けば、みんな割れちゃうんです。良い物ならいいですが……先に持って行ったのは、みんな割れちゃうんです。
〔 質問者 〕コップに水を入れてあるのは乾燥を防ぐためで。
【 明主様 】あれはそうです。蒔絵だけです。陶器類も、日本の支那陶器は良いというのは、昔から伝わってますからね。ところが英国、米国にあるのは土中物といって、土に埋めたものです。同じようでも、ぜんぜん違います。何百年、何千年前に支那の戦争のときに埋めたんです。外国は、ほとんどそれが多いです。ですから、英、米ともに支那陶器は新しい……康煕、乾隆の良い物がありますが、宋時代の物はほとんどないです。日本のは、そういう物を藤原時代に輸入して珍重してますが、それが良いんです。ですから青磁の良い物は日本です。
〔 質問者 〕坊さんが向こうに行くようになってから来ましたのでしょうか。
【 明主様 】それもありますが、とにかく足利義満と義政が、ああいう物を好んで珍重して、支那に買いにやったりしたんです。だからその判のある物はみんな高いです。東山御物と言って、天山と判を捺してあります。それを捺してあるのは、みんな良い物です。それを徳川家康か家光がまねして、柳営御物としましたが、柳営御物もかなり良いですが、時代が若いので、中には感心しないのがあります。東山御物なら間違いないです。だからその功蹟はたいしたものです。宋元物をさかんに輸入したので、それをまねて画いたのが狩野派です。雪舟は支那まで行きました。支那に行って、勉強して偉くなったんです。その時分に支那に行って、勉強したりしたのは、雪舟に啓書記、周文……みんな、坊さんです。宋元物というのは、みんな坊さんです。牧谿も坊さんです。坊さんがたいしたものです。
〔 質問者 〕禅から来ているのでしょうか。
【 明主様 】禅です。禅というのはたいしたものです。茶の湯でも禅から出ているんです。
〔 質問者 〕武蔵の絵も禅からで。
【 明主様 】そうです。武蔵は、だいたい沢庵を師匠にして禅を学んで、光悦の影響を受けたんです。私はお茶は習わないが、家内がやっているから、お茶の席に行くが、お茶をあんなことをしてやるのは嫌いです。しかし、茶席というのは閑寂で良いものです。
〔 質問者 〕お茶席にかけてあるのは。
【 明主様 】「是佛」と書いてあるが、あれは気に入っているんです。無準の弟子なんです。あの書は日本に一つか二つしかないです。上手いでしょう。まねができないです。名前は分かっているんですが、覚えていないです。無準の直弟子で、なんでも三代目じゃないかと思う。あの字は良い字です。布でも、その時代に表装したんですから、日本にないような良い布です。
〔 質問者 〕美術館のは後から取り換えたのもありますので。
【 明主様 】それはあります。
〔 質問者 〕当時から続いたほうが。
【 明主様 】奥床しいんです。絹のは「帰雲」ですが、日本一でしょう。私は「帰雲」が好きで、やっとあれが手に入ったんです。その隣の大燈のは良い物です。
〔 質問者 〕画家は趣味がないようでした。
【 明主様 】墨蹟は画家には分からないです。あれは茶人でなければ……。お茶では墨蹟です。利休はお茶のときには墨蹟です。たまに掛けるのは牧谿の墨絵です。他に掛けるのはないです。
〔 質問者 〕牧谿の茶掛もお持ちでございますか。
【 明主様 】「川蝉」というのがあるでしょう……烏みたいな、あれがそうです。墨蹟というのは茶室では良いです。絵ではどうしても力が弱いです。