昭和二十六年八月一日 『御垂示録』一号(4)

〔 質問者 〕やっぱり、秀吉は好きだったのでございましょうか。

 好きだったんです。偉いと言うのは、朝鮮の飯茶碗を持ってきた。それを、利休は茶器の茶碗に使ったんです。それで、それが一つの国宝になったんですね。それで、秀吉は、国をやる代わりに、茶碗をやったんですね。ですから、大名によっては、国をもらうより、茶碗をもらったほうが良いと言うのがいる。それで、徳川の代々の大名は大事にして、茶碗一つを大事に駕篭に入れて、江戸に行って、それでお茶の会があった。だから、説によると、秀吉が朝鮮出兵したというのは朝鮮の陶器が欲しいために朝鮮出兵したと言うくらいです。
  

〔 質問者 〕支那、朝鮮では保存する人がなかったのでしょうか。

 いやいや保存してあったんです。ところが戦争があったでしょう。それによって、逃げられなかったので、土の中に入れて逃げた。また水中物と言って、水につけて逃げた。それが、きれいです。唐、隋、晋、宋、一番良いのは周ですね。周銅と言ってね。これはほとんど真っ青です。年代でなったのは錆が少ない。それでごく尊い。陶器でも銅器でも保存されていたが、書画だけはしようがない。書画だけは日本に来て日本で保存された。だから、支那の絵は日本に来ているので、アメリカはそれを欲しがっている。それで博物館では、これはたいへんだと言ってほうぼう探して歩いている。

 浮世絵にも良いのがあります。浮世絵はたいてい版画ですがね。私は版画は嫌いです。肉筆が良い。版画は印刷の技巧が大半です。東山水墨と言ってね、足利時代の墨絵で、これは良い。それから大和絵ですね。それから現代画ですね。ふつうの蒔絵も……高蒔絵ってありますね。研出蒔絵、金が中に入っている。平蒔絵、ひらべったくなっている。ふつう、研出が一番良いんですね。一番良いのは、徳川初期時分が一番良いんです。高蒔絵の一番良いのは、加賀の前田ですね。庭に小屋を作って蒔絵師につくらせた。加賀蒔絵と言ってね。