〔 質問者 〕いままでの偉大な西洋古典音楽などでは、中に偉大な「悲哀」をもっていて、それが人々を感動させるものですが、地上天国になると大きな悲哀はなくなりますゆえ、芸術も明るく朗らかなものばかりになるのでございましょうか。
これはこの通りで、あくどい刺激はなくなって明朗な脚本になります。悲劇なんかは地獄を描いているのですが、こっちも地獄へ堕ちているものだからそれで慰められるのです。いままでが封建的な生活だったので圧迫される筋のものを好むのです。この点はロシア文学なんか殊にひどく、国民性がよく出ています。やはりアメリカが一番明朗です。あの『ヴォルガの船歌』にはロシアの帝政時代の希望のない生活がリズムによく出ています。ベートーヴェンもほとんど悲痛です。耳が悪くなってから名曲ができたと言われますがその通りです。ベートーヴェンにはいいところもあるが、私はアメリカのもののほうが好きですね。
〔 質問者 〕「さび」などはいかがでしょうか?
「さび」と悲哀はまた別です。これは日本人だけのものです。建築でも木膚を鑑賞するのは日本人だけです。支那でも西洋でもみんな色を塗ってしまう、しかし最近はアメリカなんかで一部分判りかけてきましたね。……「さび」は「茶の湯」から出たのです。
「『御光話録』二号、岡田茂吉全集講話篇第一巻p」 昭和24年01月08日