昭和二十三年十二月八日 御講話(12) 光録(補)

〔 質問者 〕いままでの偉大な古典西洋音楽などでは、中に偉大な「悲哀」を持っていてそれが人々を感動させるものですが、地上天国になると大きな悲哀はなくなりますゆえ、芸術も明るく朗らかなものばかりになるのでしょうか。

 これはこの通りで、あくどい刺激はなくなって明朗な脚本になります。悲劇なんかは地獄を描いているのですが、こっちも地獄へおちているものだから、それで慰められるのです。いままでが封建的な生活だったので圧迫される筋のものを好むのです。これはロシアの文学なんか殊にひどい。国民性がよく出ています。その点アメリカが一番明朗です。あの「ヴォルガの船歌」には、ロシアの帝政時代の希望のない生活がリズムによく出ています。ベートーヴェンもほとんど悲痛です。耳が悪くなってから名曲ができたと言われる通りです。ベートーヴェンにはいいところもあるが、私はアメリカのもののほうが好きですね。

 〔 質問者 〕「さび」などはいかがでしょうか。

  「さび」は悲哀とはまた別です。これは日本人だけのものです。建築でも木膚を鑑賞するのは日本人だけです。支那でも西洋でもみんな色を塗ってしまう。しかし最近はアメリカなんかで一部分判りかけてきましたね。さびは「茶の湯」から出たものです。

「『御光話録』(補)(年代不詳1951頃)、岡田茂吉全集講話篇第一巻p」 昭和23年12月08日