岡田先生療術上(三) 【黴菌に就て】

 最近、某博士の実験報告によれば、今日まで黴菌は皮膚の毀損とか粘膜とかに限って侵入すると謂われて、健康な皮膚面からは絶対侵入されないとしていたが、そうでなくて何所からでも侵入するという事を発表したのであります。右の実験が正確とすれば、黴菌侵入に対して絶対的予防は不可能という事になるので実に驚くべき事であります。でありますから結局私が前から言っている、黴菌が侵入しても犯されないという体質になるより外に安心は出来ないのであります。しからば、吾々の方の解釈では黴菌が侵入するといかなるかというと、仮に赤痢なら赤痢菌が血液の中へ入るとする、すると非常な勢で繁殖してゆく。これは何故に繁殖してゆくかというと汚血があるからであって、その汚血中の汚素が黴菌の食物になるのでそれを食って繁殖するのであります。故に血液の濁りは黴菌の食物でありますから、黴菌が侵入してもその食物が無ければ餓死してしまう訳で、それで汚血の無い人は発病しなくて済むのであります。

 黴菌の食物にもいろんな種類がある。チフス菌を育てる食物もあり、赤痢菌を育てるのもあり、コレラ菌の育つ食物もあるのであります。黴菌は食物を食いつつ繁殖しつつ死んでゆくものであって、黴菌にも強いのもあり弱いのもあり、短命もあり長命なのもあるので、そして死骸が種々のものになって排泄されるのであります。

 赤痢などは血が下りますが、あの血の中には黴菌の死骸と生きてるのと混合しているのであります。

 食物の有るだけ食い尽す結果は浄血になるから病菌は死滅する。それを医学では、抗毒素が出来ると謂い、それで治癒するのであります。

 人間の身体というものは、汚い物があると必ず排除される作用が起るものであります。ですから、鼻血だとか喀血だとかは何程出ても心配はない。これが出る程良いのであります。喀血など止めようとするが、これは丁度、糞の出るのを止めようとする如なものであります。

 故に黴菌は、人間の血液の浄化作用の為に、存在している--掃除夫とも謂ってよいのであります。

 人間の生活力が旺んであって、黴菌に犯されないという事が理想的で、それには黴菌に掃除させる必要のない--浄血の持主になる事であります。

 次に、殺菌という事を謂いますが、薬剤などによって人間の体の外部に有るものなら殺す事は出来るが、しかし、人間の体の中に居る菌を殺そうという事は絶対不可能でありましょう。縦し、人体の一部が黴菌に犯されたとしても最早其時は黴菌は身体全部に行渉っているので、これを悉く殺菌しようとすれば全身凡あらゆる所へ菌が全滅する量の薬剤を入れなければならないが、それは不可能と思うのであります。

 例えば、内服薬や注射薬で肺結核菌を死滅させようとしても困難でありましょう。薬が一旦胃の中へ入り、各種の消化機器能を経て肺臓へ働きかける頃はその薬剤の成分は全く変化してしまうからであります。

 又、眼病にしろ縦令利く薬にしろ其薬が種々の器能を通って眼の方へ働きかける迄にはマルッキリその成分は変化してしまうであろう事は想像し得らるるのであります。

「『岡田先生療病術講義録 上巻(三)』,岡田茂吉全集著述篇第二巻p199」