ただいま美術館の最重要品のひとつになっております国宝、光琳の紅梅白梅二枚折り一双をお買入れになるときのことを思い出しましたので、それを書いてみます。
あの当時――それは昭和二十九年ですが、その当時の相場としては非常に高い価格でなければ手にはいりませんので、再三再四持ち主に交渉しましたが、なかなか話が進みません。
それで、その事情を明主様に申し上げまして、「いま二、三百万円余分にお出しになれば、お手にはいりますが、お宅さまで二百万や三百万円多くお出しになりましても、なんでもないことかと思いますが、奮発してお買いになられてはいかがですか」と申しましたら、明主様は色をなされ、ご立腹になられて、『私の教団は信者の零細な金を集めてやっているので、そんな大金を軽く出すわけにはゆかぬ』と申されましたので、私は恐縮してだまってしまいました。
明主様は、そういう誠のお人でした。