『喧嘩でもして来たのか』

 箱根、熱海時代、人の出入りの多くなったころは、服装についてよくご注意下さいました。夏など胸をハダケ、乱れた服装のままお側へおうかがいする時など『喧嘩でもして来たのか』と、おからかいになるというふうなご注意の仕方でした。

 また、着物の襟や袖などが汚れがついているとすぐにお目にとまり、ご注意下さいました。ある時など磨粉か壁土のようなものがついていたのをお認めになり、『何をつけたんだ、除れないのか、こっちへ来てみなさい。除り方を教えてやろう。こういうふうにするんだ』とお手ずからその部分を掴み、丹念にもんで落して下さったこともあります。