昭和二十五年の大火のあと、熱海で私の絵の展覧会を開いた時、岡田さんご夫婦が見に来て下さいました。
それが私が岡田さんにお会いした最初で、その後、買って下さった絵の代金をいただきに清水町のお宅へ伺いました。そして、いろいろ世間話をしているうちに、奥さんが吉住さんのお弟子で長唄をやっておられることを知りましたが、実は私も吉住(慈恭)さんの孫弟子で少しばかり長唄をやっていましたので、その方で急に親しくさせていただくようになりました。
岡田さんは、飾り気の全くない人でした。大工の棟梁といった庶民的な感じでした。普通だったら、岡田さんのような立場にあったら、もっと、そらそうにするものです。特に、こっちが画かき風情なのですから……。
ところが、そういうところが全然ありません。たとえば、羽織、袴に、髪なども伸ばしたりして、特殊なポーズをするのに、岡田さんにはそれがないのです。むしろ、あまり飾り気がないので、もう少し構えた方がいいのではないかと思ったくらいです。