教祖様は時々三越本店の特選売場へお見えになりました。二代様とご一緒の時もあり、そうでない時もありました。
前ぶれなしにおいでになるのですが、その呉服の選定が実に早くて、極端に申せば、一目見て『これがいい』『これにする』と素早くお決めになります。
俗に言う〝目の高い客〟で、いい物だけを扱っているこの売場の中でも、特に上等のもの――極上の趣味のものをお選びになります。
一流の上の品と、同じ一流でも中か下の品とを、実によく見分けられて、こちらからお値段を申し上げる前に、ちゃんと極上のものをお取上げになっているのです。
しかも、いま申しましたように、その選定が実に早いのです。あっちを見、こっちを見てさんざ吟味した上で、決めるというようなことはありませんでした。
さっとおいでになって、まるで引金を引くと弾が出るように、さっとお買上げになって、そして、さっとお帰りになるといった具合でした。
ですから、たとえ私がいくつかの呉服をひろげてごらんに入れても、その中からお好きなものを選ばれるのが全く素早く、しかもそれが専門の私から見て、いつも一流中の一流のもの――生地といい、柄といい、色といい、一点の難もつけにくいといったものなのです。全く目の肥えたお客さまでした。
そして、一般のお客さまの場合によくあることですが、一度選んだ呉服が気に入らなくて取替えるなどということは決してなく、一発必中とでも申しましょうか。引金をひいて飛び出た弾は、常に的に当たるという名手によく似ています。