昭和二十七年のこと、「エンズイコッテイルジョウレイニコイ」という電報を明主様からいただきました。延髄えんずいと肩の凝っているのを自覚してはいましたが、ここ一か月以上もお屋敷へ伺ってっていないのに、なぜ凝っているのをご存じなんだろうと不思議に思いました。早速に伺って、そのことをおたずねすると、明主様は、『提出した原稿の文体が乱れている。それにてにをはがでたらめだ』と言われましたが、そう説明されれば、本人の私が気づかないだけのものであったかも知れません。だがそのつぎには、寝ている私の霊魂を呼ぶ交霊術ででもないかぎりわかるまい、と思うことが起こりました。
それは翌年の二十八年、お屋敷から電報がありました。「ハナシアルスグ ハコネニオイデ ヲコウ」それで早速伺うと、側近の方が、「きみの家はどうなっているの。実は明主様が “あなたが追い立てをくって因っている。住むところがなくなったら仕事が出来ないから、すぐ家を一軒買ってやれ”とおっしゃったので電報を打ったんだ。ほんとうかい?」と聞くのです。「これで三度目だ。明主様の千里眼は」と私が言うと、「それはなんのことだい」と目を丸くして聞かれます。過去二回の概略を説明し、「いまの借家が知らぬまに第三者の手に渡り、つぎつぎにタライ廻しして値を釣り上げ、即座に立退くか買取るかと弁護士をよこしたり、暴力団を向けたりで困りきっている。だがこのことはだれにも話したことはなく、家内とふたりだけで心配しているが、買取る金はもちろん、アパートを借りる金もないし、無法な悪と闘うのも社会人の義務だから頑張るつもりだ。イスラムの教えにあるように、歯には歯、眼には眼で、暴力団の厭がらせに報いてやるさ。明主様のお心には感泣する外に言葉もない」と事情を話し、明主様がどうしてこのことをご存じなのか、不思議でならないと言うと、「見真実に達しておられる明主様だから、何もかも見透しなされるのが当然で、千里眼や天眼通なんていう、ちっぽけなもんじゃないんだ。それにしても明主様のご眼力には恐れ入ったなあ。では結果を待ってからとして、とりあえず、そう明主様にご報告申し上げておこう」と慰められました。
《附記──昭和三十年八月、裁判は勝訴となり、供託してあった家賃の外、立退料、詫び状などを取って現住所に居を移した》