『あれはまちがえるよ、おまえ行け』

 側近御奉仕のお許しをいただき、お屋敷に上がって五日目、初めて明主様にご挨拶させていただいた時のことです。明主様は「萩の家」でラジオをお聴きになりながら、御神体や「おひかり」のご揮毫中でした。

 ご挨拶がすんで、私は部屋の隅で、三人の奉仕者のお手伝いぶりを、じつと見学させていただいておりました。

 そのうち、お聴きになっていたラジオに雑音がはいり、ガーガーうなり始めました。明主様は奉仕者のひとりに洋間のラジオを持って来るよう、お命じになりました。その人は一生懸命お手伝いしていましたし、私はただ見学させていただいているだけでしたので、その人に“私が代わりに行かせていただきますから”と言って、明主様に一礼し、大急ぎで神山荘に行きました。

 明主様は、『洋間のラジオ』とおっしゃったので、私は洋間と名のつくのは、神山荘にしかないからと、ひとり決めにして、神山荘の洋間のラジオをもって行ったのです。

 ところが、実際には観山亭のご書斎も洋間ですから、明主様はそこのラジオのことをおっしゃったのでした。(これは後でわかったのですが……)

 普段、そのご書斎は“ルーム”“ルーム”とよんでいましたので、お屋敷のどこに洋間があるのだろうと、私は、萩の家に帰って、違うラジオを持って来たことを知らされても、そのことに全然気づかず、しかもその時は、どうしてお詫び申し上げたらよいかもわからず、ただ黙って明主様の方に頭を下げたきり、小さくなって畏まっていました。

 ところが、その時、さきほど明主様が、ラジオを持って来るようお命じになった奉仕者が、別のラジオをもって帰って来たのです。私はなんのことだか判りません。

 それで、その場はなんのおとがめもなく無事お仕事も終わりました。

 しかし、私は、なぜその人が私のすぐ後でラジオをとりに行ったのか、またどこからもって来たのか、不蕃に思いましたので聞いてみました。すると、私が飛び出してまもなく、明主様が、『あれはきっと間違ったのを持って来るから、おまえ行って来い』と、ふたたびお命じになったというのです。明主様はちゃんと私の間違いをお見通しだったのです。そしてラジオはルームのラジオのことをおっしゃったのだということでした。

 私は新参者で何もかもわからないのに、そそっかしく、よけいなことをして、ご迷惑をおかけしてしまったことを悔いるとともに、今後、明主様のお言葉には素直に従わなくてはいけない。明主様はすべてお見通しなんだからと、心の底から思わせていただきました。