二・二六事件の朝

 昭和十一年、例の二・二六事件の時のことであります。

 二・二六事件とはご承知の通り、時局を憤慨した一部の軍人が突如として反乱を起こした、“いまからでも遅くない”の名文句で有名な事件でありましたが、その二十六日は、私のところの月次祭でありまして、その折に、「おひかり」をいただきたいという信者がありましたので、私はそのまま、「おひかり」をいただくために、半蔵門の本部へ参りました。明主様は、午前中に、玉川へ帰られてお留守とのことです。

 本部の人に聞きますと、明主様は、『きょうはおもしろくないから、御神体を巻け』と言われ、さっさと、玉川へ引き上げられたとのことでした。それが、私には不思議でした。なるほど、その日の午後になると、附近に兵隊が集まり出し銃声が聞こえました。しかし、午前中は兵隊の姿もなく銃声も聞こえず、何事も感じられないのに、明主様は、『きょうはどうもおもしろくないから……』と引き上げられたのです。これは神様でなければわからないことだと、いまさらながら私は、明主様のご霊感というか、ご神力に感じ入ったことでした。

 さらによく聞けば、明主様は本部の人たちに、『もしものことがあったら、畳を何枚も立てて、押入れにはいっていなさい』と言われたそうであります。不思議に思った人たちが、「どうしてですか」とお伺いすると、『あとになればわかる』とだけおっしゃったそうです。

 私たちが、これは大変なことになったと気づいたのは、午後三時ごろで、夕方ラジオを聞いて、初めて、「ああ、そうだったのか」と思ったのでありました。
私は、つくづく、感にたえてしまいました。

 明主様が何気なく、まるで冗談のように言われたことも、みんなギリギリの真実であることを、痛いほど悟らされました。