揮毫

 ご夕食のあと、偶数日で、映画のない日は、明主様は、七時から御神体、「おひかり」などのご揮毫をなさいます。

 その間もずっとラジオをお聴きになられ、暑い時には、片肌ぬぎになられてお書きになることもありました。

 このお仕事は、大体一時間から一時間半ぐらいで終わりますが、そのスピードは、とても人間業ではありません。

 御神体は、一時間に百体から二百体、「おひかり」は、同じく一時間に六百枚から七百枚をご揮毫になります。そして、このスピードで一気呵成にお書きになりますから、側でお手伝いする三人の奉仕者も、よほど呼吸を合わせて、流れ作業的にサッサとやらないとだめなのです。

 明主様も、『これは流れ作業だよ』とおっしゃっていますが、とにかく、百文字単位の早業で、しゃれた言い方をすれば、ウルトラCの放れ業──『私は能率主義だ』と明主様もおっしゃいました。そして、『こういう熟練工になるには、三年ぐらいかかる』と、よく笑っていらっしゃいました。

 そして、その御書体は、いずれも墨痕淋漓(ぼっこんりんり)、無限の力と愛に満ちていて、見飽かぬ魅力をもち、ある書家は評して、“一生の修練も及ばぬ超凡の技”と絶讃しています。

 このころは美術館も出来てまのないころでしたので、ご揮毫を終えられますと、九時までのあいだ、いろいろな美術書をごらんになられ、美術のご研究をされるのがご日課のひとつになっておりました。美術書はユーモアホップレス、白鶴、青山荘清賞(根津美術館)といったものが主で、他に世界美術全集、大正名器鑑なども、よくごらんになりました。